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大阪高等裁判所 昭和40年(ラ)24号 決定

抗告人 中村芳寛

主文

原決定を取消す。

抗告人のため、堺市大浜中町二丁目四七番地松村奈良治所有の同所同番宅地五八坪七合四勺について、抗告人と右松村間の昭和三九年一二月三一日譲渡担保契約に因る所有権移転の仮登記を命ずる。

理由

一、抗告の趣旨ならびに理由は別紙のとおりである。

二、当裁判所の判断。

不動産登記法に定められている仮登記制度は、本登記をなしうるだけの実体的要件又は形式的要件を完備していない場合に、その具備をまつて時日を遷延すると、権利者に不測の損害を与えるおそれがあるところから、その具備をまたずにあらかじめその順位を保全することをゆるすための予備登記である。かゝる性質上、法は、その登記申請については、一般の本登記の場合の申請と同じ方法のほかに、更に(一)仮登記義務者の承諾書を添附して為す仮登記権利者の単独申請の方法と、(二)仮登記義務者の協力を得られない場合に、仮登記権利者が裁判所の仮登記仮処分命令を得て、その正本を添附して単独申請する方法との、二つの簡易な登記方法を認めている。いま、不動産登記法第二条第一号の仮登記について考えてみると、前記(一)の方法によるときは、形式的要件たる「登記ノ申請ニ必要ナル手続上ノ条件カ具備セサルトキ」に該当する場合は、登記義務者の権利に関する登記済証が提出できないときとか、登記原因について第三者の許可・同意・承諾を要するのに、その許可等を証する書面を提出できないときくらいに限られるのであるが、前記(二)の方法によらざるを得ない場合には、前記形式的要件に該当する場合として、そのほかに、登記義務者が本登記にも仮登記にも協力しない場合が加わるのである。けだし、不動産登記法第二六条によれば、登記申請の手続上の条件として登記義務者もまた自ら又は代理人をして登記所に出頭せしめ、登記権利者と共同して申請することを要し、仮登記の場合でも、同法第三二条により少くとも承諾書を作成して交付することが必要であり、登記義務者がこれらの協力行為をしないことは、むしろ「手続上ノ条件カ具備セサルトキ」の最たるものであり、それだけで、同法第二条第一号の形式的要件を具備すること言うまでもない。

ところで、抗告人提出の疎一号証(登記簿謄本)疎二号証(松村奈良治作成連帯借用証書)疎四号証(抗告人作成陳述書)によれば、抗告人の求める主文第二項掲記の仮登記の仮登記原因(法第三三条)及び「手続上の条件の具備しないこと」(法第二条)の疎明は十分である。

よつて、右と異なる原決定は不当であるから、これを取消し、不動産登記法第三三条第三項、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条、第三八六条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 岩口守夫 岡部重信 安井章)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消す。

被申請人所有の末尾不動産について昭和三九年一二月三一日譲渡担保契約に因る所有権移転仮登記又は所有権移転請求権保全の仮登記を命ずる趣旨の裁判を求める。

抗告の理由

申請の理由は原決定摘示の通りで被申請人は申請人から負担する債務の担保として昭和三九年一二月三一日末尾の不動産を譲渡担保に供するに至つたのである。譲渡担保は譲渡担保契約と同時に内外ともに所有権が移転するものと推定されるものであることは大審院大正一三年一二月二四日民事聯合判決の判例であり従つて本件不動産は既に申請人に所有権移転していると解すべきであることは原決定も判示しているのであるから被申請人は申請人に対し所有権移転の本登記に協力すべき義務を負担しているに拘らずその義務を尽さない場合は申請人としてその登記手続請求を訴求する外ないがその判決を得て本登記をする迄の間に相当の日時を要するからその本登記の順位を保全するためには不動産登記法第二条第一号に依る仮登記即ち物権変動の仮登記を為す外ないのである。

若しも右譲渡担保契約は単なる債権契約に止るものと解すべきとすれば未だ物権変動が成立していないのであるから、申請人は被申請人に対し物権行為を請求して所有権移転を受け得る請求権を有するのだからその請求権を保全するために不動産登記法第二条第二号に依る仮登記を為すべきである。

尚譲渡担保を登記原因とする場合は如実に譲渡担保とするのが妥当であつて譲渡担保の場合登記原因を売買と記載しているがそれは適当でないことは法務省香川保一氏著「金融法務講座」第三巻五六三頁で説述しているところに依つて申請の趣旨の登記原因の表示を「譲渡担保」としたのである。

原審は本件申請を排斥したのは本件を民訴法に依る仮処分申請を為すべきであるとの思想に依るものでないかと思えるが若しも本件を民訴法の仮処分登記を以てしたならばその本案訴訟中に被申請人が国税滞納処分を受けて本物件を公売せられるときは仮処分登記は抹消されざるを得ない(国税徴収法第一四〇条項参照)のであるから順位保全の仮登記を措いて申請人の本件譲渡担保権の権利保護を他に求める手段がないのであるから原決定は不法であると信じ抗告に及んだ次第である。

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